ハノイ出張日記
僕が入社早々、右も左も分からない時に、僕を気にかけてくれていた先輩(彼もまた京都大学の交換留学経験者だった)が僕を海外出張に連れて行ってくれた先がハノイだった。それをきっかけに海外畑を歩んだ僕は、今では一人で仕事を仕切れるようになったのだけど、今でもハノイに来る度に、新人当時の思い出がこみ上げてくる、特別な場所だ。
そして、僕がハノイに特別な思いを抱くもう一つの理由が、その食文化だ。東南アジアにありがちな辛さで味を作るのではなく、素材の出汁を上手くつかった味付けは、どこか和食と共通点があって、出張者には優しい料理だ。(因みにベトナムでは中部のHue料理が唯一辛く、ハノイで辛い料理を食べたくなったら67
Hang DieuにあるBun Bo Nam BoでBun Bo Hue(辛いスープの米粉麺)を食べるのがお勧めだ)
まず、僕がハノイに来ると真っ先に行くのが、ブンチャー専門店のDac Kim 2号店(1号店もあるのだけど、2号店の方が美味しい)。ブンチャーしか置いていないという吉野家の上を行く単品戦略の店なのだが、味は確かでいつも超満員。ほのかに甘いスープと米粉麺のつけ麺で、唯一のサイドメニューであるあつあつの揚げ春巻きとのコンビネーションがたまならい。有名店なのだが英語は全く通じないので、地元の人と一緒でなければ注文できないレアな存在だ。
そして、Dac Kimでローカルフードを食べた後は、Green Tangerineに行くのがお決まりだ。フランス植民地時代の邸宅を改装したカフェ・レストラン。バイクが飛び交う旧市街の通りから一歩中に入ると、フランスの田舎を髣髴させる美しい中庭が広がる。欧米系駐在員ご用達になっており、英語やフランス語の談笑が入り混じる独特のゆったりとした時間が流る、どこか隠れ家敵雰囲気がある店だ。お金の話になると急にハードボイルドになるベトナム人との交渉に疲れた時、ここでどろっとしたベトナムコーヒーを飲んで、英気を養うのが良い。
夜はフレンチレストランのLa Badianeへ。ホテル日航の近くにある、コロニアル調の邸宅を改装したレストランで、フランスで修行を積んだBenjamin
Rascalouが主宰している(実は前述のGreen TangerineをオープンしたのもBenjamin Rascalouなのだが、La
Badianeを開店する際にGreen Tangerineを売却している。だから、彼の味を求めるならLa Badianeでないとダメなのだ)。この晩、僕が頼んだのは、Duck
mushroom risotto (USD 22)。パサパサしがちなduckも柔らかく仕上げていて、良い素材を使った上品な味付けだ。デザートには、Warm
strawberries in red wine, thyme perfume and pistachio ice
cream (USD 10)を頼んだ。プレゼンテーションも美しく、赤ワインで軽く煮詰めたイチゴなど、ベトナム以外の東南アジアではまず出会えない一品だと思う。
外国人にはすこぶる評判の悪いベトナム独自のアルファベットであるクォック・グーがフランスが残した負の遺産とすれば、繊細な味のベトナム料理と、本格派フレンチレストランは、フランスの置き土産なのかもしれない。
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