欧米の寮で成功するための10ヶ条
1:寮内の留学生の誰よりも頑張る
僕は高校や大学の英語の授業では、大抵クラスで一番だった。留学前にTOEIC 900も超えた。それなりに語学力には自信があったが、いざ現地に着いてみると現地学生との語学力には雲泥の差があった。表面的に会話はできても、ジョークを言ったりしてオージー達を惹きつけるレベルには至ってなかった。でも僕が例外というわけではなく、大多数の留学生や移民達と、オージー達の間には越えられない語学力の壁が存在しており、ディナーテーブルは人種ごとに完全に分裂していた。それでも僕はオージーのグループに混ぜてもらいたかったから、寮内のどの留学生よりも努力した。寮や大学で寮生を見かけたら、追いかけていって懸命に話しかけた。外国人同士では絶対に固まらず、常に現地学生の輪に突っ込んでいった。
こうして努力を続けていると、寮生の間で「あの新入りの日本人は、現地に馴染むよう努力している」といった評判が立つようになってきた。すると、英語が劣る僕を、暖かく会話に混ぜようとしてくれる親切な寮生も出てきた。わざわざ話しを振ってくれたり、飲みやカラオケに誘ってくれたりした。例え英語がネイティブより劣っても、寮内のどの留学生や移民達よりも現地に馴染もうとする姿を見せれば、必ず評価してもらえる。英語力が足りない部分は、誰にも負けない努力で埋めるのである。
2:寮生全員をI love you
寮生全員を大好きになって欲しい。人気の寮の場合、何倍もの入寮倍率を勝ち抜いた寮生達は皆良い所を持っているはずだ。各々の寮生の素敵な所を見つけて、大好きになって、なぜ自分がその人のことを好きなのか、ダイレクトに伝える。お世辞ではなく、点数稼ぎでもなく、心の底から相手への好意を伝えると、多くの寮生が僕にも好意を抱いてくれる。他の留学生とは一切会話をしない奴でも、僕には特別に笑顔で接してくれたりする。相手に好かれたければ、まずは自分が相手を大好きになることだ。
3:絶対に自分からは人間関係を切り捨てない
規模の大きい寮なら、残念ながら外国人と話さないポリシーの学生も居るだろう。私の経験では、8割はフレンドリーだが、1〜2割程度はそんなバカヤローだ。ハッキリ言って、同じアジア系でも男の方が冷遇されやすい。アジア系に対して、「お前には興味ない」ってな態度をとる連中が残念ながら一定の割合で存在する。悔しい思いをすることもあるだろうが、それでも絶対に自分からは人間関係を切り捨てないこと。100人程度しか住んでいない寮内で敵を作れば、すぐに居場所がなくなるからだ。どんなに嫌な奴でも、良い点を探して、例え返事がなくても挨拶程度はして、心はオープンに空けて相手が飛び込んでくるのを待つ。そして寮内で力のある学生と仲良くなって自分の寮内でのプレゼンスを上げると、僕の経験では1ヶ月程度で相手から声を掛けてきたのである。自分が広い心を持ち続ければ、相手の心を開くこともできるのだ。
4:入寮三日で寮生の名前を覚え
毎日名前で呼びかける
寮に入ったら、とにかく僕は会う人全員と握手して、入寮三日で寮生の名前を覚えた。寮生の名前や趣味を密かにデータベース化して、寮生全員を丸暗記するまで毎晩名簿を見ては顔と名前を一致させた。彼らと会ったら、毎日欠かさずHey
Scott. How’s it going Emmettってな感じで、意図的に相手の名前を呼んだ。「僕は君の名前を覚えていますよ」ってな、さりげないアピールだ。名前を早く覚えたことをアピールすれば、相手への好意も伝わるから、結局は自分の寮内での好感度が上がるのである。
5:オージー発音を馬鹿にしない
しばしば「オージーアクセントが聞き取れない」とかバカなことを言っている日本人に出会う。確かに独特のアクセントはあるし、多少聞き取りにくいのは分かるが、だからと言って聞き取れないはずがない。オージー発音を馬鹿にしてる奴は、単に自分の英語が下手で聞き取れないのを言い訳しているに過ぎない。大阪弁に誇りを持つ大阪人と同じように、オージー達は自分達の発音に誇りを持っている。その発音を、英語が超下手な日本人に馬鹿にされたら腹立たしいはずだ。他人の発音は絶対に馬鹿にしないこと。自分の好感度を下げるだけだ。
6:寮生の悪口は言わない・寮の不満は口にしない
食事がまずいとか、ネットが四六時中落ちるとか、ホンネでは寮に対する不満は沢山あったが、僕は寮に対する不満を一切口にしなかった。口にすれば、キッチンスタッフを攻撃していることになるからだ。ネットだって寮生が管理してるんだから、大っぴらに文句を言えば個人攻撃と取られかねない。だから、例え食事がどんなにまずいと思っても、僕は毎日キッチンスタッフに感謝の言葉をかけた。誰かの悪口でディナーテーブルが盛り上がっていても、適当に相槌を打つ程度にとどめ、積極的には参加しなかった。たかだか100人強の寮で悪口を言えば、当人に伝わるのは時間の問題だからだ。組織の中で生きていれば、嫌な奴の一人や二人は居るだろうし、不満だってあるはずだ。でもそんな事を口にしても、回りまわって自分のイメージが下がるだけで何の得にもならない。
7:寮生の政治関係を冷静に分析する
誰と誰が仲が悪いのか。力のある人は誰か。誰と仲良くすべきか、誰と距離を取るべきか。最初の二週間程度は腰を低くして全員に顔を売ったほうが良いが、いつまでもランダムにディナーテーブルに座っていたら、いつまで経っても誰とも深い友情を築けない。ある程度寮生活に慣れたら、寮内にどんなグループがあるのか、どのグループに入ると楽しい生活が送れるか分析する。同じ仲良しグループに属する学生でも、留学生に対して寛容な人も居れば、全く興味ない人も居る。入りたいグループを見つけたら、メンバーの誰にどうアプローチすると効果的なのか考える。例えば座りたいディナーテーブルがあっても、突然一人で誰かの横に座れば「アンタ誰?」的な反応をされるだろう。だから戦略的に動く。ディナータイム直前に、混ぜてもらいたいグループの中でも留学生に優しそうな学生の部屋に遊びに行って、一緒にダイニング・ホールに行こうと誘うのだ。こうして留学生に寛容な人を入り口に使って、目的の現地学生グループに入り込むのだ。次に寮内で力のある学生に交友関係を広げていくと、ロジャーのように普段は外国人とは一切会話しない奴もだんだん僕に話しかけるようになってくるのである。このように、寮内で影響力があり、かつ留学生にも寛容な人に守ってもらいながら、ゆっくり現地学生のグループの奥深くに入り込むのだ。
寮や会社といった組織というものは、自分の地位や政治力が上がるほど叩かれにくくなるものである。日本人は決して憧れの対象ではないので、率直に言って新入りの日本人留学生の寮内地位は低い。ただ、自力で自分の地位を上げようと思わない方が良い。軽くあしらわれても、一人で抗議したところで無駄だ。手っとり早く自分の寮内地位を上げるコツは、寮のリーダー的存在の学生と太いパイプを築くことだ。強い人にくっ付いていれば、無視されたり、軽くあしらわれることは絶対にない。強いグループに入ると、突然周囲が僕に優しく接してきたりする。組織とは所詮そういうものであり、打算的に人間関係を築くこともハッピーな留学生活を送るためには必要だ。
8:先輩顔しない・年下とも同じ目線で話す
特に男の日本人大学院生(特に博士課程の学生)や教員が留学すると、寮でやたら先輩顔する奴が多い。年功序列の日本では、単に年齢が上だというだけで研究室で威張りまくれるわけだが、その態度を欧米に持ち込むと嫌われる。確かに周りは高校出たてホヤホヤの18歳なわけだが(ティーンですよ!ティーン!)、だからといって「君たちはまだ若いから」とか「僕には人生経験があるから」とか偉そうな発言をすると自爆する。先輩後輩の概念がない欧米では、単に横柄な奴としか見られない。そんなアホな態度を取って、率先して寮や研究室で孤立していってる日本人大学院生や教員を腐るほど見てきた。
だから僕は、18歳の寮生達と同じ目線で話す。確かに子供っぽいと感じることもあるが、それでも絶対に相手を後輩扱いしないようにしている。自分より5歳も年下のティーンでも、必ず自分より優れた点を持っている。例えば、若干18歳にして数ヶ国語に堪能なツワモノも居る。そこまででなくても、例えばジムで僕の倍のウェイトを挙げられる奴も多い。どんなに小さな事でも良いから、相手の尊敬できる点を見つけて、心の底から褒めてあげる。そして自分自身も磨いて、寮内で尊敬されるような存在になれば、互いに深い尊敬をし合える良い関係が築けるのだ。
まず日本人の男に言いたいのは、変なプライドを捨てること。特にドクター以降の年を食った日本人は、往々にして実力以上に無駄にプライドが高く、態度がデカイ。例えば研究室内で最も英語が下手だった某T大学の客員研究員が、誰よりも偉そうな態度を取ってるんだから、そりゃ皆に嫌われる。プライドがあればあるほど、また年下の学生を後輩扱いすればするほど、欧米では失敗するので十分注意して頂きたい。
9:予定の3割は常に空ける
僕は、留学時代も、会社に入ってからも、手持ちの仕事(勉強)は自分のキャパシティーの7割程度に抑え、常に予定の3割は空けることにしている。突然の遊びのお誘いや、うまみのある仕事を逃さないためだ。
とりわけ入寮当初は、たまたま廊下で会った現地学生に「今から映画に行くんだけど、一緒に来ない?」なんて誘われることがある。このチャンスは絶対に逃してはいけない。入寮から一か月も経てば、現地学生の仲良しグループが出来上がってしまって、留学生が誘われる機会が激減するからだ。だから宿題などは前倒しで終えておき、突然のお誘いも逃さない体制を常に維持しておくとよい。
これは会社に入ってからも同じで、優秀な社員が突然ヘッドハントされたりしたときに、「僕がカバーします」と手を挙げると、一気に評判が上がる。勉強にしろ仕事にしろ、無理に詰め込みすぎず、常に余裕を持っておくことが、チャンス獲得のコツである。
10:バーに行くとき誘ってもらえるかが鍵
1から9か条まで実践すれば、寮内のほぼ全員とそれなりに会話できる関係になっているはずだ。最後に実践して欲しいのが、その表面的な人間関係を掘り下げ、深い付き合いをすることである。
寮内の全員が参加できる公式イベントに参加するのは留学生にも簡単だ。だが、一部の寮生達が個人的に企画している飲みや旅行に誘ってもらえるかが勝負所だ(そういうプライベート・イベントの方が圧倒的に楽しいものだ)。現実には、現地に10年以上住んでいる移民ですらバーホッピングには誘ってもらえないのが通例で、大抵の留学生は現地学生と一緒に飲みに出かける程の深い人間関係は築けずに留学を終える。だから、飲みに誘ってもらいやすい「体質」に相当意識的に変えなければ負け組み留学生の仲間入りだ。
お勧めは、現地の人気銘柄(ジェームス・スクワイアなど)を片手に寮で中心的な学生の部屋に外交しに行くこと。酒に強い印象も与えられるし、ここで気に入ってもらえれば飲みに誘ってもらいやすくなる。20ドルのビールケースや、ワイン一本で友情が築けるなら安いものであるが、これが結構有効なのだ。また、英語力の劣る留学生が場の盛り上げ役になるのは難しいが、少なくとも雰囲気を崩さないレベルまでは留学前に英語力を上げておくべきだ。TOEIC
900後半位は叩き出し、自らジョークを言えないにしても、少なくとも他人のジョークには適当に突っ込み程度は入れられるようにして、現地学生に「こいつと一緒に居ても悪くないな」って思ってもらえるようになろう。
とにかく欧米で日本人(特に男)がボケッと突っ立っていても、飲みに誘ってもらえる可能性は限りなくゼロに近い。日本企業なら尊敬の対象になっているかもしれないが、日本人は決してカッコいいとは思われていない。日本製高級車を乗り回すことがクールでも、日本人の友達を連れて歩き回ることはクールではない。強いて一緒に飲みに出かけたい対象ではないから、黙ってれば誘われない。オーストラリアって言うのは、「ドレスチェック」と称してアジア系男性を平然と入店拒否するクラブがそこら中にいまだ健在(*1)な国なのだ。テレビのイケメン特集でアジア系が登場することはないし、お洒落レストランのウェイターはサーファー風のイケメン白人と相場は決まっている。日本でそこそこクールな奴でも、こちらでの立場は底辺に近いと覚悟すべきだ。だから相当に努力してでも誘ってもらいやすい「体質」に変貌し、飲みのお誘いがかかるよう積極的に仕掛けていこう。それぐらいタフで積極的でないと、欧米では成功しない。
*1: Racism rules at pubs, The
Sydney Morning Herald: All Men Are Liars, May 2007
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