留学の恩を返す
僕の父は、僕が交換留学に行くことにずっと反対していた。やっとの思いで手に入れた交換留学の合格を報告をした時に、父は祝ってくれるどころか、「俺は反対だ」と突っぱねたのは辛かった。理由は簡単で、当時僕の父は無職で、経済的に苦しかったからだ。早く慶應を卒業して、家から独立して欲しいというのが父の本音だった。「もう子供に金はかけたくない」と言わんばかりの親を姿を見て、情けない気持ちで一杯だったのを今でも鮮明に覚えている。
そんなこんなで、交換留学に受かったは良いものの、僕には金がなかった。困り果てた時、ちょうど給費奨学金の募集を見つけ、出願したところ運良く受かった。大学から20万円ほど貰い、さらに給費奨学金が70万円位頂いた。これで、旅費、食費、寮費がタダになったので、なんとか留学を実現できたのである。家庭には恵まれなかったが、様々な人に助けられて実現した留学だったのである。
お陰様で今では、希望どおり年に何度も海外出張に出かけられるような職を得ることができた。ビジネスクラスに乗れるし、ホテルも5つ星に泊まらせてもらえている。高給って程でなくても給料には不満はなく、年10万マイルくらい貯まるし、まぁ経済的に不自由はしなくなった。あまり恵まれていない家庭出身の僕を、ここまで押し上げてくれた交換留学の機会を与えてくれた奨学会や、慶應大学には、感謝の念が絶えない。
交換留学は飛躍のチャンスであり、このチャンスを授かった人は、2つの恩返しをすべきだと思う。まずは、後輩を支えることだ。例えば、自分が過去に住んだ寮の寮長に、後輩の塾生を推薦してあげるのも良い。実際、オーストラリアの全寮制私立高校や大学寮は、過去の品行の良い寮生の弟を優先的に採用する伝統がある。そして、奨学基金に寄付することだ。交換の卒業生なら、30代には年収1000万円程度にはなるだろうから、その中から数万円くらい寄付するのは責務だろう。税還付も受けられるので、バラマキに使われる税金を払うより、意思の高い若者の奨学基金に寄付する方が、よほど日本の将来に資すると思っている。
振り返ると、当時の慶應の留学コミュニティーはそっけなくって、「自己責任で勝手に準備してね」ってな感じだった*1。そんなこんなで寮選びから全部自力でやったのだけど、結果として変わり者が集う寮を選んでしまったりと(参考ページ)、もう少し先輩からの支援や、同期・留学生との交流があれば、もっと良い経験ができただろうにと思うのである。当時は交換留学用の奨学金も少なく、奨学金を取れずに留学を諦めた同期もいた。だから、これらか交換留学に行く後輩の皆さんには、ぜひ翌年の後輩を温かく支援し、そして出世したら奨学基金に寄付をする*2という恩返しをしてほしい。そんな温かい支え合いの文化が広がることを期待している。
慶應義塾
維持会
未来先導基金
交換留学は国際的に活躍するチャンスを与えてくれる
留学できた暁には、後輩を全力で支え、出世したら寄付すべき |
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*1:僕が慶應からUNSWに最初に派遣される学生だったという事情もある。先輩もおらず、UNSWから慶應にも留学生が派遣されていなかったので、相談したくても、する相手がいなかった。
*2:一流大卒・一流企業勤務の親を持った裕福な家庭に育った大部分の塾生には分からないかもしれないが、家庭が貧乏だと交換留学には行けない。学費がタダとは言え、生活費も嵩むし、かなりの確率で留年するからだ。能力ある学生が、親の経済力の問題で留学を断念することがないよう、手厚い奨学金制度を充実させるべきである。
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